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2015年10月8日木曜日

松本康雄“レフリー”World Masters Jiu-Jitsu 2015参戦記「レフェリー目線での観戦記」

グラスコ柔術アカデミー長崎代表・松本康雄さんによる「World Master Jiu-Jitsu IBJJF Championship」レフリー参戦記! 残念ながら「今回はレフリーは定員だ」と断られてしまった松本氏……。そこでテーマ変えて“レフリー目線”のマスターズ観戦記となりました。

よくアウェイ判定なんて言われますが、実際のところどうなのか? 最新ルールを熟知した、松本氏の“目”にはどう写ったのか。注目のレポートです。
松本康雄“レフリー”World Masters Jiu-Jitsu 2015参戦記

ラスベガスまで渡米しながら、レフリーまでも定員に達してしまい、残念ながら参加できなかったが「ワールドマスターズ2015」。

観戦者の立場に、いつもの遠征以上に“レフェリング”に注目し、試合を観るようにしました。まずは日本人選手の気になった点を紹介していきます。


まずは写真の金古選手vsフェリッペ・コスタ戦。

金古さんの試合終了間際の渾身の、魂のこもったスイープにはシビれました!

でも、この試合取り上げたいのは、試合序盤の金古選手の引き込みに対して、相手に2ポイントを与えた部分です。
あれは無いですね。ミスジャッジだと思います。



 
(編集部脚注:さぁ、そんな試合もチェックしてみましょう!)

金古選手は対戦相手の上衣をつかみ、しっかりと尻をマットにつけていました。そこで対戦相手は金古選手を押し込み、背中をマットにつけさせただけです。
これで2ポイントはあり得ない。

次にラスト1分を切った辺りです。。
金古選手が上からパスガードのアタックを続ける流れで相手が立ち上がり、すぐに金古選手が引き込みました。

レフェリーはこのアクションに対し、相手に2ポイントを与えました。

ネットやSNSでは「なぜ相手に2ポイントが?」という意見が見られましたが、自分の見解では、このポイントは正当なジャッジです。

なぜかというと、相手のガードを完全に越えて抑え込む前に「一瞬」両者スタンドになり「3秒以内」に金古さんが下になったからです。
結果、相手がパスされていない(つまりガード)の状態からの流れで上下が入れ替わっているので、リバーサルが成立したのです。

逆に言うと、あの時スタンド状態が3秒以上経過してから引き込んでいれば、ガード状態がリセットされてスタンドの攻防に移ったと見なされ、金古さんの引き込みは成立します。この場合、もちろんリバーサルの2ポイントは入りません。

ルールブックには、スイープの説明の中に以下の文章があります。

対戦相手にガードまたはハーフガードをかけた状態で下になっている競技者が立ち上がり、対戦相手を下のポジションにした状態を3秒間維持する
(ルールブック第4条 4.6)

「上の選手が下の選手の足を超えた時点でガードは成立しないのではないのか?」
という意見があるかもしれませんが、それは誤りです。

パスガードとは、上になっている競技者が、下になっている対戦相手のガードまたはハーフガードを超え、対戦相手をサイドコントロールまたはノースサウスポジションで制した状態を3秒間維持する状態を言います。
(ルールブック第4条 4.2)

つまり、足を超えた時点では、まだなんとも言えない状態なのです。
ただし、パスガードのアドバンテージが入ることはあり得ます。

以前からルール講習会で「3秒」ということはしつこく言われてきていましたが、今回のルール講習会でも同様でした。日本の大会でも、このケースでポイントが入ることがよくあります。
(そしてクレームを受けることも…)

この「3秒」については、指導者や選手の皆さんには特に意識してほしいと思います。勝てていた試合を落とすことにもなりかねませんからね。




吉岡選手(ATOS)の初戦は送り襟絞めで一本勝ち。
翌日のセミファイナルに駒を進めて安堵の表情を押さえました。

この試合の序盤、場外際で吉岡選手がガードポジションだった状態でレフェリーが「パロウ」とコール。
その直後、吉岡選手がスイープのアクションを起こし上下が入れ替わりました。

ここでレフェリーは両者を中央に戻し「パロウ」のコール時点の状態にして、吉岡選手に「ファルタ」を宣告、ペナルティーを与えて再開しました。

このペナルティーの意味、わかりますか?

「パロウ」は試合を中断・終了する掛け声です。
(ルールブック第1条 1.4.1)

この掛け声に従わなかったことについて、レフェリーは反則行為とみなしたのです。
同じようなことは国内の試合でもよく見られますので注意してほしいと思います。

そしてもう一つ。

再び場外際、今度は吉岡選手が上でクローズドガードに入っている状態でレフェリーが「パロウ」のコール。
両者中央で同じ体勢からリスタートとなったとき。
吉岡選手は中央に戻る際、はだけていた道衣を直してクローズドガードに入ろうとしたら、レフェリーは吉岡選手の道衣を再びはだけさせ「ファルタ」をコールしペナルティーを与えました。
(二度目の反則だったため、相手にアドバンテージも入りました)

このペナルティーの意味、わかりますか?

レフェリーは「パロウ」のコールのみで道衣を直す指示を与えていなかったのです。
にもかかわらず吉岡選手が「勝手に」道衣を直したため、中断寸前と同じ体勢から試合を再開させようとするレフェリーの指示に従わなかったと見なされてのペナルティーだったのです。

いかなる理由であれ、レフェリーが試合を中断したときに競技者は可能な限りポジションを変えず、レフェリーの指示を待つ必要がある。
(ルールブック第1条 1.3.6 注釈)

競技者両者の身体が場外に出そうな場合、もしくは両者の身体の3分の2が場外に出て床に留まっている場合、レフェリーは試合を中断し、各競技者の体勢を記録し、中断の寸前に取っていたまったく同じ体勢から、試合場の中央において試合を再開させる。
(ルールブック第1条 1.3.7)

最終的には一本勝ちだったため、ファルタの回数もアドバンテージも勝敗に影響しませんでしたが、もしポイントもアドバンテージも同点だったら吉岡選手は敗退していたことになります。

国内でも「パロウ」のコールの後、レフェリーの指示無しに選手が道衣を直すシーンはよく見られますので、注意してください。

ここまでは日本人選手の試合で見られたケースを紹介しましたが、最後に幾つかの試合で見られたシーンについて。

場外際でガードもしくはハーフガードのときにレフェリーが「パロウ」をコールしました。
すると上の選手はすぐに離れて中央に戻ってしまいました。
その選手に対して、レフェリーは「ファルタ」を宣告し、ペナルティーを与えました。

このペナルティーの意味、わかりますか?

勘違いしている選手が非常に多いんで、もう一度書きます。
「パロウ」は「ブレイク」ではないんですよ。「ストップ」なんです。
(ルールブック第1条 1.4.1)

そして先に紹介した(ルールブック第1条 1.3.6 注釈)と(ルールブック第1条 1.3.7)を遂行しようとしたレフェリーの指示に従わなかった行為に対してのペナルティーなのです。


初日の試合の中で「レフェリー目線」で気になったケースをいくつか挙げてみました。

誤解してほしくないのは、これらのケースは今大会から厳しくなったのではないということです。以前からルールブックに書いてあったことなのです。

自分はここ数年、九州のほとんどのJBJJF公式大会および公認大会でレフェリーを務めています。
今までもルールブックに則って試合を裁いてははいましたが、より一層、しっかりとしたレフェリングを行おうと思います。

「地方だからある程度は緩く・・・」とは思いません。

その考えで試合を裁いていると、九州から全日本クラスの大会やアジア・オープンに遠征する選手は、いつもとは異なるレフェリングによって、勝てる試合を落としてしまうことがあり得るからです。

こういうことを書くと、
「あのレフェリーは厳しい」
「頭が固い」
「選手が楽しく試合できるようにしてほしい」
という意見が出てきます。
実際、今までも言われたことやネットに書かれたことがあります(笑)

「厳しい」んではないんです。
「公平に」レフェリングするだけなのです。
そこは誤解していただきたくないところです。

指導者の皆さんはもちろん、試合出場を考えている選手の皆さんは、ぜひ一度ルールブックを読んでいただくことを強くおすすめします。


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